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三人寄れば文樹の陰
慶應義塾大学文学部 准教授
平石 界
(ひらいし かい)
Profile — 平石 界
東京大学大学院総合文化研究
科博士課程退学。東京大学,京
都大学,安田女子大学を経て,
2015年4月より現職。博士(学
術)。専門は進化心理学。
引っ越し直後のことです。干しておいたシャ
ツがいつの間にかベランダの床に落ちているこ
とが頻発して,下着ドロでもないし,これはどう
いう新手のイタズラかと思っていたら,カラスが
針金ハンガーを持っていってたことがありまし
た。いろいろ工夫しても巧妙に盗まれ続け,結
局はプラハンガーを買ってきて現在に至ります。
たしかになぁ。カラス,アタマ大きいもん
ね。賢いんだろう。でもなんで? 頭いい鳥と
そうでもない鳥は何が違うんだろう? いろん
な調べ方があると思いますが,一つに,いろん
な鳥の脳みその大きさと暮らしぶりを比べてみ
るってのがあります。たくさんの鳥について一
人で調べるのは大変ですが,幸いなことに世界
中には鳥ラヴな人々がたくさんいて,しっかり
データが集まっている。それを使ってWestさ
ん(2014),ちょちょいとDecision Tree分析な
るものをやってみました。なんでも,この手の
分析をするなら,あのANOVAより優れている
手法だそうで,否が応でも期待が高まります。
論文のタイトルからして奮ってるんです。
「鳥における大きな脳の進化は,社会的単婚
(遺伝的単婚じゃないよ)と関連している」。ど
こが奮っているか分からない? 鳥類はしばし
ば雌雄がペアで子育てしますね。オシドリ夫婦
なんて言葉もある。だからって夫婦間の諍いが
ないとは限らない。はっきり言ってしまうと,
雛のDNAをちょちょいと調べてみると,あれ
まぁ親爺さん,この子ってばあんさんの子じゃ
ないよ。そんなことがママあるわけです。世知
辛い。何が世知辛いかって,脳の大きさは「社
会的単婚」と関連していたんです。遺伝的単
婚,つまり貞節な種の脳が大きいわけじゃな
い。脳が大きいのは,社会的には単婚だけど,
裏でゴニョゴニョしている種だったというわ
けで,余所さんとの浮気がバレないように/浮
気をさせないようにすることが脳の進化につな
がったんじゃないかとか書いてあって,鳥ラヴ
な人々が営々と積み重ねてきた知識の一つの到
達点がこれかと,しみじみします。
もっとも,Westさんの研究が決定打という
わけでもないようです。例えばFedorovaさん
ら(2017)はむしろ,ペア関係と脳の大きさの
関連は見られなかったと報告してます。この手
の研究では系統的な類似性が常に問題になり
ます。カラスが “賢い” のは有名ですが,近縁
のアオカケスもかなりやる。それってご先祖様
が近いからじゃないの? という話です。そこ
でFedorovaさんたちキツツキに話をしぼった。
みんな近縁。住んでるところも食べ物も似てい
る。でも社会がけっこう違っていて,子育て期
だけペアを作る種,年間通じてペアを作る種,
年間通じて集団生活する種に分けられるそうで
す。これまた蓄積された既存データを最新の
ファイロジェネティック・ジェネラライズド・
リーストスクエアズ・リグレッションで分析し
てみたら,脳の大きさと関係していたのは,集
団を作るかどうかだったと言うのです。集団を
つくる種ほど脳が小さかった。
そうです。脳が小さかったんです。心理学
ワールドの読者の皆さんですから「社会脳仮
説」なんて聞いたことあるかと思います。霊長
類の脳は,複雑な社会集団に暮らすことで進化
したんじゃ,って話ですから,話が逆です。な
ぜなのか。キツツキの社会は,霊長類と違っ
て,協力的で競争がなく諍いはないから,むし
ろ脳を小さくしてエネルギー節約できるんじゃ
ないかと著者は書いていて,ホモ・サピエンス
的には反省することしきりです。なんてったっ
てニンゲン,公共財ゲームやらせると儲けて
いる人の真似ばっかりするそうですし(Burton-Chellewら,2017),賢いんだか賢くないんだか。